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東京家庭裁判所八王子支部 昭和48年(家)2353号 審判 1974年6月13日

申立人 村上勝(仮名) 昭四八・六・二五生

外一名

右法定代理人親権者母 村上好子(仮名)

主文

申立人両名の氏「村上」を申立人両名の父の氏「中野」に変更することを許可する。

理由

申立人両名は主文同旨の審判を求めた。

本件調査の結果によればつぎの事実を認めることができる。

申立人両名の父中野正治と母村上好子は昭和四七年に結婚し同居したが婚姻の届出はしていない。村上好子は昭和四八年六月二五日申立人両名を分娩し同年七月五日その出生届をなし、中野正治は同月一三日に申立人両名を認知する旨届出た。申立人両名は嫡出でない子であるため母である村上好子の氏を称することとなつている。申立人両名は昭和四八年一〇月一日から小金井市の○○保育園に入園したが同保育園においては父の氏の中野を名乗つている。申立人両名は父母と同居し現に父母の監護養育を受けている。申立人両名の父母が婚姻の届出をしないのは婚姻の届出をすることによつていずれか一方の氏が他方の氏に変ることを嫌つているためである。父母が婚姻の届出をしないため現在申立人両名の親権者は母である村上好子であるが、父母の協議により親権者を父である中野正治とすることができ、その場合においては申立人両名の氏「村上」を父の氏「中野」に変更することはより容易となる旨の裁判所の示唆に対し申立人両名の父母はともに親権者を母から父に変更する意思のないことを表明した。

以上の事実を認めることができる。このような事実関係のもとにおける申立人両名の本件申立の当否について検討する。

父母が婚姻の届出をしていないけれども事実上の婚姻関係にある所謂内縁の夫婦であるときでも法律上は父母が婚姻関係にないものとして父母のうちの一方のみが子の親権者とされ且つ子は母の氏を称するものとされるわけであるが、実際の生活において父母が共同して子の監護養育にあたつているならば、子がひきつづき母の氏を称するか、或いは父の氏を称することにするかは格別の支障のない限り父母(子が一五歳以上のときは子)の選択に委せてよいものと思料する。そこでつぎに本件において上記の選択の自由を認める妨げとなるべき格別の事情が存在するか否かについて検討する。申立人両名の父母が婚姻の届出をなし、夫の氏を称することとすれば申立人両名は父母の氏を称することとなり本件申立の必要は解消するのみならず申立人両名も嫡出子の地位を取得することができるにかかわらずそのことを敢えて拒否する申立人両名の父母の措置には納得し難いものがあるといわなければならない。しかしながらそのことをもつて上記選択の自由を妨げる事由と解するのもやや意地悪の感があり相当ではない。申立人両名の父母が婚姻の届出をすることによつて本件を解消しようとしないことをもつて上記格別の支障とすることはできない。申立人両名の父母は申立人両名の親権者を父母の協議によつて父とすることにより本件申立が容易に認容される旨の裁判所の示唆に対してもこれを拒否しているのであるが申立人の父母のこのような拒否的態度も納得し難いところである。しかしながら父母の一方だけが親権者である場合に子の氏と親権者の氏を一致させることは望ましいことであるとしても、子の氏と親権者の氏を異なるままにしておくか、それを一致させるかは現行法規のもとにおいては子又は親権者にその選択の自由を与えているものと解されるところであつて、実際においても子が親権者である父又は母と異なる氏、つまり親権者でない母又は父の氏を称している例も相当にあるのであるから、申立人両名の父母が申立人両名の親権者を父としないことをもつて父母いずれの氏を称するかの上記選択の自由を妨げる格別の事情とすることはやはり相当でない。結局本件においては、申立人両名の父母が申立人両名に父母いずれの氏を称させるかの選択の自由を認めるについて格別の支障はなく本件申立はこれを許容するのが相当である。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 中田早苗)

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